生活習慣病

「生活習慣病」のあなたは、すでに心不全の“入り口”に立っている

狭心症や心筋梗塞などを含めた心臓病と、脳出血や脳梗塞などの脳卒中は、日本人の死因の上位を占めています。これらはどちらも、主に「動脈硬化」が原因となって起こる血管の病気です。死因の第1位は「がん」ですが、心臓病と脳卒中を合わせると総死亡の約3割を占めるので、「動脈硬化」を防いでこれらの疾患を予防することは、生命維持にとても重要です。
『ヒトは血管と共に老いる』という言葉の通り、男性は30歳台から、女性は閉経後から「動脈硬化」が始まります。動脈硬化の進行を速めるものとして高血圧、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの『生活習慣病』があげられます。不健康な生活習慣が主な原因であり、生活習慣の改善、特に食事療法ならびに運動療法が治療の中心になります。

「生活習慣病」が引き起こす動脈硬化のリスク

  • 動脈硬化とは

    「動脈硬化」とは、心臓から体の各部分へと血液を運ぶ血管(動脈)が硬くなることです。動脈が硬くなると、血管のしなやかさが失われるために血液をうまく送り出せず、心臓に負担が掛かってしまいます。
    また血管の内側がもろくなって粥腫(コレステロールや脂肪などと、血中にあるマクロファージと言われる物質が沈着したもの)ができ、血管の中が狭くなったり、詰まったり、また粥腫が剥がれて血液中を漂い、やがて細い血管を詰まらせたりします。ちょうど水道管が古くなると汚れて詰まったり、錆びて剥がれたりするのと同じような状態です。必要な酸素や栄養が全身に行き渡らず、臓器や組織が正常に機能しなくなったり。壊死(組織が死んでしまうこと)してしまう場合もあります。

  • 頸動脈エコーで、動脈硬化の進行度を「診る」

    動脈硬化を起こすと、血管壁が肥厚したり、硬くなったりしますが、その様子をエコーで視覚的にとらえることができます。頸動脈(首の左右に1本ずつ走っている太い血管で、頭部に血液を送る重要な役目を担っている)の狭窄や血栓の有無を調べるためだけでなく、「全身の血管の窓」として観察し、動脈硬化の進行度を調べることにより、全身の動脈硬化の程度(脳梗塞・心筋梗塞など血栓症のリスクや程度)が診断できます。

  • 20~30年に及ぶ「動脈硬化の進行」が心臓病、心不全につながる

    動脈硬化が進行するとさらなる高血圧を招き、心臓にも大きな負担が掛かってくるため、心肥大・心不全などの心疾患につながります。
    また血管が狭くなったり詰まったりすることで、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症などを招きます。 血管が破れると、クモ膜下出血などの脳出血を引き起こすこともあります。
    図のように動脈硬化によって引き起こされる病気は、20~30年に及ぶ「動脈硬化の進行」が知らず知らずの内に体を蝕んだ結果として出てくるものなのです。

  • 「生活習慣病」を軽視しないでほしい。逃げても必ず、倍返しされます。

    治療は患者さんとの共同作業、お互いの信頼関係や目的が一致しなければ成立しません。多くの患者さんは食事・運動を頑張りますといって、お薬を敬遠されます。たしかに食事と運動が治療の基本です。しかし思い込み、あるいは医学的な根拠に基づいていない週刊誌の記事、自分だけの経験談に重きを置き、薬の恩恵、医師の経験や知識をおろそかにしています。医師として、沢山の患者さんを治療させていただいた経験を患者さんに還元することが私の使命です。ですから、患者さんが目先のことしか考えないで安易な治療を選択されたり、治療を放棄される際にはとても残念に思います。

代表的な生活習慣病

動脈硬化は年齢と共に進行しますが、様々な危険因子によって進行がさらに速められてしまいます。
ですから、それらの危険因子を除いていけば、進行を遅らせることができます。
高血圧が動脈硬化の大きな危険因子の一つであることはよく知られていますが、脂質異常症や糖尿病も同様に重大な危険因子なのです。

  • 高血圧症

    高血圧症とは、安静にしているにもかかわらず慢性的に血圧が高い状態が続いていることを指します。高血圧を放っておくと、その高い圧力によって血管壁にストレスがかかり、動脈硬化が生じて心不全や狭心症、心筋梗塞といった心臓血管系の病気を招いたり、または脳出血、脳梗塞の原因になったりします。高血圧には様々な段階がありますが、一般的に収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg以上、拡張期血圧(最低血圧)が90mmHg以上であれば、治療が必要な高血圧であると言えます。
    高血圧の治療で最も大切なことは、定期的に血圧を測定し、自身の今の状態をしっかりと把握、記録しておくことです。血圧は季節や時間帯によって変動するため、家庭に血圧計を用意し、治療中も継続して計測するようにすると良いでしょう。
    また、必要に応じて血圧を下げる薬「降圧薬」を服用し、合併症や他の病気になってしまうリスクを抑えます。

    高血圧症
  • 脂質異常症(高脂血症)

    脂質異常症診断基準2022にて、随時(非空腹時)の中性脂肪の基準値が175mg/dLとはじめて設定された。
    出典 : 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」

    脂質異常症(高脂血症)というのは、血液中の脂質、具体的には「コレステロール」や「中性脂肪(トリグリセライド)」などの濃度が慢性的に高い状態のことです。血液検査にてLDLコレステロールが140mg/dL以上、HDLコレステロールが40mg/dL未満 、トリグリセライド(TG:中性脂肪)が150mg/dL以上の場合、それぞれ脂質異常症と診断します。
    脂質異常症を放置すると、増えた脂質がどんどん血管の内側に溜まって動脈硬化の進行を促してしまい、ついには心筋梗塞や脳梗塞を招く原因となってしまいます。当院では血管内エコー(超音波)検査などを行い、動脈硬化の有無と程度を評価します。かつ冠リスク因子や家族歴などを鑑み、薬物治療が必要な状態か判断します。

    食事療法
  • 糖尿病

    NPO病診連携フォーラム東海HP 引用

    糖尿病は、血液中を流れるブドウ糖(血糖)の値が高くなる病気です。通常、私達の血液の中を通るブドウ糖は「インスリン」と呼ばれるホルモンの働きによって各臓器でエネルギーとして適切に利用されるのですが、糖尿病の患者様は様々な原因によりインスリンを出すことができない<インスリン分泌不足>、またはインスリンを上手く使うことができない<インスリン抵抗性>、といった状態になっていて、血糖値が高く維持されてしまいます。血糖値が高い状態が続くと血管に大きな負担をかけてしまい、様々な合併症が引き起こされてしまいます。
    糖尿病は「完治させる」ことよりも「血糖をコントロールし、合併症を発生させない」ことを目的として付き合っていく病気です。合併症を引き起こさないためには、できる限り早い段階から治療を開始し、定期的な診察を受け、正しい治療を続けることが大切です。
    当院では過去1~2か月前の血糖の平均を反映する「ヘモグロビンA1C」と「随時血糖」を毎月迅速測定することで『治療の現在地』を示し、患者様に食事療法や運動を見直す自覚を促しています。

  • メタボリックシンドローム

    内臓脂肪型肥満は動脈硬化を進行させて、高血圧・糖代謝異常・脂質代謝異常などを引き起こし、さらに心筋梗塞や脳卒中などの心臓血管疾患をもたらします。
    「メタボリックシンドローム」は、生活習慣病の中でも特に、肥満(内臓脂肪型肥満)と、高脂血症・高血圧・糖尿病のいずれか2つ以上を併せ持った状態です。
    またメタボリックシンドロームの人では肥満によって気道が塞がれやすくなるため、睡眠時無呼吸症候群(SAS)になる危険性が高まります。無呼吸が起こると、睡眠の分断からの交感神経興奮、また組織の低酸素や低酸素ストレスなどによって、高血圧・糖尿病・高脂血症を悪化させ、動脈硬化の進行に拍車をかけます。つまりメタボリックシンドロームが睡眠時無呼吸症候群を形成し、睡眠時無呼吸症候群がメタボリックシンドロームをさらに悪化させ、心臓血管疾患を発症するリスクはさらに高まります。

    睡眠時無呼吸症候群