低栄養だと「フレイル」になります。さらに心不全が悪化します。
シニア世代は活動量の低下により、食欲が減退し、健康な身体を維持するために必要な栄養素が足りない低栄養という状態に陥ります。全身の栄養状態が悪いと、心臓そのものに大きな負担がかかり、心不全が進行したり、治療に時間がかかるなどの影響がでます。また筋力や免疫力が低下し感染症・骨折から、寝たきりに繋がることがあります。
低栄養は、筋肉量や筋力が落ちるサルコペニア、心身の機能が低下して虚弱となるフレイルという状態を起こしやすくなります。
「フレイル」とは、高齢者の筋力や心身の活力が低下した状態(虚弱)を指す言葉です。まだ障害は起こっておらず、自立した生活はできていますが、風邪や転倒などちょっとしたことをきっかけに、寝たきりなどの要介護状態になる危険が高まります。
「フレイル」の段階ではまだ障害は起こっておらず、自立した生活はできていますが、風邪や転倒などちょっとしたことをきっかけに、寝たきりなどの要介護状態になる危険が高まります。一旦要介護状態になると、もとの状態に復帰するのは容易ではありません。フレイルを維持または改善することで健康寿命を延ばすことができます。
心不全とフレイルは互いに悪影響を及ぼしあうため、自立した老後を送るためにも、
心不全が軽症なうちから、フレイルを予防をすることが重要です。
心不全になると、息苦しさなどからあまり動かなくなり、筋力が低下して、フレイルの状態になります。
また心不全が悪化すると胃や腸への血液の流れが悪くなって、消化吸収機能が低下したり、食欲が落ちることがあります。食事が十分とれないと体重減少や栄養失調が起こります。特に筋肉量の減少や貧血は心不全をより悪化させ、さらに食事がとれなくなってしまう悪循環が起きてしまいます。日頃から栄養をしっかりとることが重要です。
心不全
「フレイルに陥らないようにする」「フレイルが進行するのを防ぐ」
ため、当クリニックでは管理栄養士による栄養指導を行っています。
筋肉の素となるタンパク質(肉・魚・大豆製品)と骨を強くするカルシウム(牛乳・乳製品・小魚)を含む食品を積極的に摂ることが重要です!
『低栄養』を予防して、健康を保ちましょう!
こんなこと、思い当たりませんか?
- 食欲が落ちている
- 朝食を抜かしがち、などで食べる回数が減ってきた
- 1回の食事で食べる量が減ってきた
- 肉、魚、卵など(たんぱく質)をあまり食べていない
上で1つでも当てはまるものがあったら低栄養状態になっているかもしれません!低栄養状態になると、筋肉が減ったり筋力が低下して疲れやすくなったりします。日々の生活への影響も大きいので、ぜひ、食事を見直してみましょう。
こんな方は要注意!
- 食べ物の好き嫌いの多い人、偏食の人
- 高齢者だけの2人暮らし、独居の人
- 太ることを気にして食事量を減らしている人、粗食の人
- がんや胃腸疾患の治療中、手術後の人
- 呼吸器系の病気の人
- 下痢や風邪の後
- うつ、認知機能の低下がみられる人
低栄養の悪循環
半年で体重3kg以上の減少の場合は要注意!低栄養状態になるとエネルギーを確保するために筋肉や皮下脂肪を分解してしまうのでやせていきます!
フレイルチェックをしてみましょう
年齢を重ねて心身の活力(筋力、認知機能、社会とのつながりなど)が低下した状態を「フレイル」と言います。心身の活力が低下したままだと、ますます体が衰え、さらには判断力・認知機能といった頭の働きも低下するという悪循環が起きてしまいます。
「以前より外出が減った」「おいしいものが食べられなくなった」「気力が低下した」という人は、フレイルの危険信号が灯っていると考えられます。みなさんもフレイルの兆候があるか、イレブン・チェックをしてみましょう。
6つ以上該当するとフレイルのリスクが高まり、〇が1つ増えるごとにリスクが2倍ずつ増えます。
低栄養の原因は?
低栄養は、主に次のような原因が考えられます。
- 食べる量が少ない
体を動かすことが少なく、お腹がすかない、噛んだり飲み込んだりしづらく、少ししか食べられない場合、入れ歯が合っているか、かみ合わせが悪くないか、虫歯はないかなど、口の中の状態も確認しましょう!
- たんぱく質(肉・魚・卵・大豆など)を食べる機会が少ない
体に蓄えられている日常生活に必要なたんぱく質が使われて「やせ」が進み、低栄養の悪循環になりやすく、体力、免疫力が低下
- 必要なエネルギーを蓄えられない
下痢や嘔吐が続いて食べたものが体に摂り込めなかったり、傷や病気を治す為に多くのエネルギーが使われている場合や運動のし過ぎでエネルギーの消費が多い場合があります。食べる量と共に、栄養素の種類やバランスも大切です。
低栄養状態を確認する方法
体重の変化や、血液検査の数値は低栄養の大切な指標です。1年に1回は血液検査を受けましょう。
BMIの値が18.5以下で低体重となりますが、高齢者はBMIの値が20を下回ると低栄養のリスクが高まります。
② 血液検査
血清アルブミン 3.5g/dL以下
総コレステロール 150㎎/dL未満
これらの指標から、低栄養状態にあるかどうか総合的に判断されます。食欲が落ちたり食事量が減った、体重が減ったなどの自覚症状がある方は、スタッフや院長にお伝えください。改善方法を一緒に考えていきましょう!
低栄養における食事のポイント
①1日3食規則正しく食べましょう
エネルギーや各栄養素を確保するために、主食・主菜・副菜をそろえたバランスの良い食事を心がけましょう。
- 食事量が少なく、食べられない場合は1回の食事量を減らし、食事の回数を増やしましょう。
- 煮物などは作り置きし、冷凍保存しておくと食べたいときに食べることができます。
- 買い物や作るのが難しい方は、宅配食サービスの利用もお勧めです。
②食べやすい形態にしましょう
咀嚼、嚥下機能の低下から食事量が減っている可能性があります。調理方法を見直すことで食べやすくなり、食事量が増える場合があります。
(お茶や味噌汁などでむせる場合、片栗粉などで とろみをつけるとむせにくくなるかもしれません。また、ドラッグストアにもとろみ剤が売られています。)
③良質なたんぱく質を摂りましょう
肉・魚・卵・大豆製品・乳製品を積極的に摂りましょう。
65歳以上の男性で60g/日、女性50g/日のたんぱく質摂取が勧められます。
手軽にたんぱく質アップのコツ
おやつも上手に活用しましょう
プリンやヨーグルトなどは口当たりも良く、手軽にたんぱく質が摂れます。他にも、ヨーグルトにきな粉を足すだけでもさらにたんぱく質アップになります。
糖質や塩分の摂りすぎには気を付けて、いろいろな食品を取り入れてくださいね!飲み物では、牛乳や豆乳もおすすめです。
ドラッグストアにも栄養補助食品が売られています
食事だけで栄養を摂るのが難しい時は、栄養補助食品を併用していただくのがいいかもしれません。患者様の状態、環境に合わせた栄養補助食品をご紹介いたしますので、食事が摂りにくくなった方は当院のスタッフにご相談ください。
ドリンクタイプは少量125mLでご飯茶碗1杯分のエネルギーが摂れます。その他栄養素もバランスよく含まれています。ゼリータイプは飲み物でムセたりする方は、こちらもお勧めです。各栄養素がバランスよく含まれ、おやつとして食べられます。その他、お薬として処方できる栄養剤もあります。こちらは診察時に院長またはスタッフにご相談ください。
その他、少しの工夫で栄養を補いましょう
量を食べられない場合
1回の量を減らし食事回数を増やしましょう煮物などを作り置き・冷凍保存しとくと食べたいときに食べることができます。バランスの考えられた宅配食サービスを上手に利用しましょう。
外食・中食の場合
麺類や丼ものなどの一品料理よりも、様々なおかずから多品目を摂れる料理を選択しましょう。定食や丸の内弁当などの品数が多い物がおすすめです。
フレイルにならないために、骨折の予防も重要です
高齢者の骨折は予防が何より重要です。まずは骨粗しょう症のケアに取り組むことをお勧めします。
<骨粗しょう症のケア>
①定期的に検診を受け、骨粗しょう症の程度を評価する。
②カルシウム、ビタミンD、タンパク質などの栄養素を適量に摂取する。
③運動、日光浴を行う(日光に当たることでカルシウムの形成を促進します)。
骨量は、加齢とともに減少します
骨量は、男女ともに30歳代をピークに減少していきます。他にも飲酒やインスタント食品、加工食品の過剰摂取でも骨粗しょう症の危険が高まります。
骨量の減少を少しでも抑えるために、食事でカルシウムを積極的に摂りたいですね。
また、ビタミンD、ビタミンKもカルシウムの吸収を助けるので、積極的に摂りたい栄養素です。
骨量の維持にカルシウム摂取を
腎臓が塩分を排泄するときにカルシウムの排泄が大きくなります。塩分の摂りすぎにも注意しましょう。上記の食品を複数組み合わせて、1日約700㎎のカルシウムを摂取しましょう!
骨粗しょう症予防にビタミンDを
ビタミンDはカルシウムとリンの吸収を助け、強い骨と歯を作ります。
ビタミンDは紫外線を浴びることによって肌でも作られます。紫外線の多い春~夏の方が、体内のビタミンD濃度が高まります。
日光に当たりにくい冬の期間や、外出の少ない人、寝たきりの人は不足しがちなので、食事でしっかり摂る必要があります。
しいたけの骨太焼き(2人分)
材料
しいたけ…4個
醤油…小さじ1
とろけるチーズ…20g
(スライスタイプ1枚分)
作り方
①しいたけの軸を取る。
②笠の部分に醤油を数滴かける。
③チーズをのせ、トースターで3分ほど焼く。
(取ったしいたけの軸も焼いて食べてもいいですね。)
④ほんのり焦げ目が付いたら取り出し、盛り付ける。
十分な栄養を摂って、身体を動かしましょう!
転倒事故を起こさないよう、安全な場所で行ないましょう!高齢の方は、見守る人がいるところで。
ウォーキング
背筋を伸ばし、かかとをあげて腕を振り、リズミカルに歩きましょう。水分・塩分の補給もお忘れなく。
運動の目安として、1日7,000~8,000歩(速歩で20分以上)となります。
足上げ
椅子に座って床と水平になるように片足をあげて、10~20秒間止めたままに。足首をまげてつま先は自分の方に向けます。
運動の目安として、右交互に10~15回程度を1セット。2~3セットを週3回程度行いましょう。
スクワット
椅子を使って安全に行いましょう。腰を落とすときは、ひざがつま先より前に出ないように。
運動の目安として、1回につき10秒ほどかけてゆっくり10回程度。1日2、3セット行うと良いですが、ご自身の身体の調子に合わせて行いましょう。
運動療法
運動後のたんぱく質補給は筋肉アップのチャンス!
たんぱく質は、運動後30分以内に摂取すると筋肉がつくられるのに効果的とされています。運動後に摂取しやすいものをおやつとしてなるべく早く摂取するようにしましょう。摂取しやすいタンパク質として、例えば豆乳、ヨーグルトやチーズなどが挙げられます。
この運動後に摂取するタンパク質はあくまで補食(おやつ)となりますので、3食のご飯を食べるのに負担にならないものを選んで摂取するようにしましょう。
座りすぎは心と身体に悪影響
1日に11時間以上座っている人は、4時間未満の人と比べ、死亡リスクが40%も高まると言われています。
新型コロナウイルスが流行してから、人と接したり食事をしたりする機会が減り、ジムなどで運動されていた方もその機会がなくなってしまったかもしれません。在宅勤務が増えて運動不足になる人も多いです。家の中でできる運動や、こまめに立ったり動く機会を意識的に増やせると良いですね。
全身の衰えにつながる、口の機能の衰え『オーラルフレイル』
ささいな口の機能の衰えを「オーラルフレイル」と呼びます。症状としては、食べこぼし、軽いむせ、かたいものが噛(か)みにくい、滑舌の悪化、口の中が渇くなどが挙げられます。
オーラルフレイルが全身の衰えにつながることが分かってきて、予防の重要性が注目されています。
オーラルフレイルのリスクをチェック
合計が3点以上になったら、早めにかかりつけの歯科医に相談しましょう!
定期的な歯科健診は、口の衰えだけでなく、全身の衰えを防いでくれます
最近、飲み込みにくくなってきた方へ
口の中のものを上手く飲み込めなくなることを、嚥下障害と言います。
嚥下障害により食事が進まず、栄養不良や脱水状態になることもあります。また、食べ物が詰まって窒息したり、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性もあるため、嚥下には注意が必要です。
むせない「不顕性誤嚥」があります。
むせたり、咳き込んだりする明らかな誤嚥を「顕性誤嚥(けんせいごえん)」といいます。一方、「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」といって、むせや咳き込むことのない誤嚥があります。夜間の就寝中や寝たきりの場合によく起こり、気づきにくいため、 知らないうちに肺炎になってしまうことも。むせや咳き込み以外の誤嚥のサインを知っておきましょう。
むせ以外の誤嚥のサイン
●飲み込んだ後、湿ったガラガラ声になる
●風邪や尿路感染の症状が無いのに頻繁に熱が出る
●痰が増える
このような場合も注意が必要です。
嚥下障害の原因
①加齢による嚥下機能の低下
歯が減ったことによる咀嚼(噛む)力の低下、唾液分泌量の減少により食塊(食べ物を飲み込むために唾液と、混ぜてできた⾷べ物のかたまり)の形成が難しくなる、のどの奥の知覚低下 に伴う嚥下反射の遅れ、のどぼとけが下がることによる嚥下運動の遅れ
②脳血管疾患の後遺症、パーキンソン病
脳血管疾患によって摂食嚥下に関連する知覚や運動の障害が生じた場合、 咀嚼ができない、うまく飲み込めない、嚥下反射が間に合わずに誤嚥するなどの、嚥下機能に問題が発生します。
③心理的な要因
うつ病などによる食欲不振
④薬の副作用
抗精神病薬、抗不安薬といった薬による各器官の働きの低下
誤嚥が引き起こす、誤嚥性肺炎
嚥下機能低下のため唾液や食べ物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症します。また、食べ物などの誤嚥の他に、口の中や喉の粘膜にすみついた細菌を含んだ唾液の誤嚥でも肺炎を起こすことがあります。
一度誤嚥性肺炎を起こすと、気道の粘膜が傷つき異物に対する反射機能が鈍くなり、誤嚥しても咳が起こりにくくなるため誤嚥したものを排出できなくなり、肺炎のリスクが高くなるという悪循環が起こります。
食べやすくする調理の工夫
下記のような食品は、口の中でまとまりにくく誤嚥の可能性が高まります。ご家族の方にも協力してもらい、食べやすく調理しましょう。
その他食事の工夫
- 野菜は刻んでマヨネーズなど油脂でまとめる
- 天津飯など柔らかくあんかけのもの、とろみのあるシチュー、ネギトロなど刺身のたたき身も口の中でまとまりやすくお勧め。
- ゼリーにして飲み込みやすく
- 山芋をすり下ろしてつなぎに。オクラやモロヘイヤなど粘り気のあるものもお勧め。
- ゼリーにして飲み込みやすく食事を一口食べるごとにお茶を飲むようにすると、先に食べた食事の残留を防ぎ、誤嚥防止になります。
食事の前にお口の準備体操を
食事の前に嚥下体操をすることも誤嚥の防止になります。嚥下体操によりお口やほほなどを動かすことで、だ液がよく出るようになり、飲み込みやすく食べやすくなりますので、誤嚥を防ぐことにもつながります。